家庭菜園を守るために狩猟免許を取った40代の記録|わな猟から鹿の解体まで

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都会では想像もつかないかもしれませんが、田舎暮らしをしていると、野菜を荒らす鹿やイノシシとの闘いは、もはや日常の一部です。 私もそんな被害に悩まされていたひとりでした。 「せっかく手間ひまかけて育てた野菜が一晩で消える」——そんな現実に直面したある朝、私は決意します。

狩猟免許を取って、自分の手で地域と暮らしを守ろう。

これは、40代の普通の会社員が、それまで現れることのなかった鹿が庭に現れたことで暮らしの在り方を見直し、狩猟という選択肢を通して自然と向き合い、命と向き合い、自分の生活スタイルを再構築していく記録です。

はじめに:野菜が消えた朝と、地域を守るという選択

40代になってから、まさか自分が「狩猟免許」を取ることになるとは思っていませんでした。
きっかけは、ある朝に起きた出来事でした。

朝起きて庭に出ると、そこにあったはずの野菜が、きれいに消えていたんです。
植えた苗も、実りかけていた野菜も、すべて食い荒らされていて…。
よく見ると、土の上には鹿の足跡。犯人は、夜のうちにやってきて、朝にはどこかへ消えていました。

最初は信じられなかったし、なんとか対策できないかと柵を立てたりネットを張ったりしました。
でも、**それもあっさり突破される。**何度も何度も繰り返されるうちに、ただ悔しいだけでなく、無力さを感じるようになりました。

そして、これは自分だけの問題じゃないことにも気づきました。
近所でも「畑を荒らされた」「植えた苗が食べられた」という声が増えていたんです。
みんな困っている。でもどうすることもできず、あきらめている人も多い。

「このままでいいのか?」

そう思った時、自分にできることとして見えてきたのが、「狩猟免許」でした。
自然や動物と向き合う覚悟が必要だけれど、これはただの趣味じゃない。
地域を守る、暮らしを守る、そういう意味を持った行動だと思いました。

このブログでは、私が狩猟免許を取ろうと思ったきっかけから、試験の流れ、初めての猟、獲物の処理、道具の選び方、そしてこれからどう活動していくかまで、すべてをリアルに綴っていきます。

これから狩猟を始めようか迷っている方や、同じように地域の被害に悩んでいる方にとって、少しでも参考になる内容になれば幸いです。

第2章|狩猟免許にはどんな種類があるのか?

狩猟免許には、大きく分けて4つの種類があります。これは、自分がどういう方法で狩猟を行うかによって分かれていて、目的や住んでいる地域、活動スタイルによって選ぶ必要があります。

第一種銃猟免許

散弾銃や空気銃などを使って鳥獣を狩るための免許です。
大型の鳥や動物を対象とした狩猟に向いており、山の中を歩いて撃つ「巻き狩り」や、忍び寄って撃つ「待ち猟」などで使われます。

狩猟免許の中では最もハードルが高く、銃の管理責任も伴うため、覚悟と準備が求められます
数ある狩猟免許の中でも最も取得が難しい免許であり、それだけに本格的に狩猟をしたい人には大きな魅力があります。

※なお、銃を所持するためには、別途、警察による審査や講習の受講が必要になります。また、銃を使用するためには銃の種類に応じた所持許可だけでなく、弾薬の購入許可も必要です。これらの手続きも警察を通じて行います。

※銃を所持するには、銃を保管するための鍵付きのロッカーなど、安全管理の設備も求められます。

第二種銃猟免許

こちらは空気銃のみを使った狩猟ができる免許です。
散弾銃に比べて基本的には威力は控えめですが、最近では威力の高い空気銃も登場しており、用途によっては十分な性能を持っています。比較的安全性が高く、住宅地近くなどでも扱いやすいという特徴があります。

対象となる獲物は、鳥類やウサギ類などの中小型動物が中心ですが、使用する空気銃の性能や条件によっては、より大きな獲物にも対応可能な場合があります。
また、第一種に比べて実技試験の内容も比較的簡単で、ハードルは低めです。

ただし、第一種銃猟免許を取得すれば空気銃と散弾銃の両方を扱えるため、実際には第二種のみを取得する人は少なく、およそ95%以上の人が第一種の取得を目指す傾向にあります。

※この免許でも銃を所持するには、第一種と同様に警察による審査と講習が必要です。
※なお、第一種と第二種では講習や試験にかかる費用はほぼ同じです。

わな猟免許

鉄製のわな(くくりわな・箱わななど)を使って動物を捕獲するための免許です。
銃を使わないため、比較的取得のハードルが低く、また安全面でも安心です。

くくりわなは比較的安価で手に入れることができますが、捕獲にはある程度のコツが必要で、設置場所や方法を誤ると失敗したり、動物や自分に危険を及ぼす可能性もあります。そのため、正しい知識と慎重な扱いが求められます

箱わなは購入すると高価なことが多く、費用を抑えるために手作りする人もいます。一度設置すると移動が難しいため、最初に場所をよく選ぶ必要があります。くくりわなに比べて捕獲率はやや低めですが、特定の動線や餌付けなどを工夫することで成果を上げることもできます。

獲物に直接向かっていく必要がなく、設置したわなを見回っていくスタイルなので、初心者にも人気があります。
私自身も、まずはこの**「わな猟免許」から始めることにしました**。
わな猟の中でも、私は**「くくりわな」を選択しました。箱わなは安全性が高く初心者にも扱いやすい反面、費用がかかるというデメリットがあります。その点、くくりわなは比較的安価に始められるため、私にとっては現実的な選択肢**でした。

網猟免許

鳥を捕まえるための**「はり網」「そう網」などを使った狩猟に必要な免許です。現在は地域や時期によって制限が多く、実際に活動している人は少ない**印象があります。

自分がどんな目的で狩猟をしたいのか、また地域でどんな被害が多いのかによって、選ぶ免許は変わってきます。
私は野菜を荒らす鹿やイノシシをターゲットにしたかったので、「わな猟免許」を選びました。

次章では、実際にどうやって免許を取得したのか、申し込みから試験までの流れを詳しく書いていきます。ていきます。

第3章|狩猟免許を取得するまでのステップ

まず、狩猟免許の試験を受けるには、事前に講習会を受講する必要があります。これはどの免許種別でも共通です。講習会は、強制ではありませんが、受講することを強くお勧めします。

私が住んでいる地域では、講習会の受講料は以下のようになっています ※現在の料金はわかりません。

  • 1種類のみ受講:13,000円
  • 2種類以上受講:16,000円

この料金には講習料・テキスト代が含まれています。ただし、試験を受ける際には別途手数料が必要です。

狩猟免許の試験手数料は、1種類の免許につき5,200円かかります。さらに、別の種類の免許を追加で受ける場合は、1種類につき3,900円が加算されます。※現在の料金はわかりません

これらの費用は収入証紙での支払いが必要で、事前に準備しておくことが大切です。なお、猟友会に加入している方は、助成制度などによってもっと安く受講できるケースもあります

私自身も、申し込みの際に役所から案内された猟友会の窓口で説明を受け、受講の流れや持ち物、注意点などをしっかりと確認して準備を進めました

次は、講習会当日の様子や試験の内容について詳しくお話しします。

第4章|講習会当日の流れと体験談

講習会に参加するには事前の申し込みが必要です。定員に達すると締め切られてしまうため、講習会の受付がいつから始まるのかを早めに確認し、余裕をもって予約しておくことが大切です。

実は私はこの重要性を甘く見ていて、「まだ大丈夫だろう」と余裕ぶっこいていた結果、予約が間に合わず、狩猟免許の取得が丸1年遅れてしまいました。これから申し込む方には、ぜひ早め早めの行動をおすすめします

講習会や試験の日程は年に数回程度しか開催されないため、タイミングを逃すと次の機会まで長く待たなければなりません。私の場合は、6月8日に講習会を受けて、6月18日に試験を受けました。講習から試験までの約10日間で集中して勉強を進める必要がありました。

講習会当日は、朝8時45分ごろから受付が始まり、9時ちょうどから講習がスタートします。私も少し早めに現地に着いて、余裕をもって受付を済ませました

午前中は基本的に座学です。机に向かいながら、配布されたテキストに沿って学ぶ内容は多岐にわたります。
まず**「狩猟とは何か」という基本的な概念から始まり、狩猟に関する法令、鳥獣に関する知識、猟具に関する知識、鳥獣の管理、狩猟の実施方法についても詳しく説明されました。
また、筆記テストについても
「こういう出題形式が多いですよ」「これはよく出ます」といった傾向を交えて丁寧に教えてくれました**。
テキストの中でも試験に出やすいポイントや要点を明確に示してくれたので、どこに重点を置いて勉強すればよいかがとても分かりやすかったです。
過去に多くの人がつまずいた問題や、引っかけやすい選択肢についても紹介があり、とても実践的な内容でした。講師の方は経験豊富で、ところどころに実際の現場での話も織り交ぜながら進めてくれるので、退屈せずに学ぶことができました

特に**「こういう違反をするとどうなるか」 「なぜこのルールがあるのか」といった背景を話してくれる場面が印象的**で、ただ暗記するだけでなく、実際に使える知識として頭に入ってきました

この後、昼食を挟んで午後には銃の取扱いに関する実技講習が行われました。
午後の初めには、銃の取扱いに関する実技講習が行われました。模擬銃を使いながら、安全確認の手順や持ち方、構え方、方向管理など、基本的な操作を一つひとつ丁寧に教えてもらいました。特に、安全装置の確認や銃口の向きなどは厳しく指導され、狩猟者としての責任の重さを感じる内容でした。

この実技講習は、試験で行う内容とほぼ同じ要領で進みます手順はすべて決まっており、それを順番どおりに覚え、試験当日に正しく再現できるようにすることが求められます。そのため、講習の段階での理解と反復練習が非常に重要になります。この日はあくまで講習のみで、試験は別日程で実施されます。
銃の講習が終わったあとは、罠猟に関する実技講習、そして網猟などその他の猟法に関する講習も行われました。これらは試験と同じ順序・手順で構成されており、講習の段階でしっかりと覚えておくことが求められます
それぞれの猟法には注意点やコツがあり、特に罠の設置については実際の設置例や失敗しやすいポイントも含めて説明がありました。

次章では、試験当日の流れや内容について詳しくお伝えしていきます。

第5章|狩猟免許試験当日の流れと体験談

試験当日は朝9時15分から受付が始まり、9時50分から試験がスタートしました。時間には余裕を持って会場に到着することをおすすめします。

なお、**狩猟免許の試験は、講習会とは別に事前申し込みが必要です。**講習会を受けただけでは自動的に試験を受けられるわけではないので、試験の日程や受付開始日もあわせて確認し、早めに申し込んでおくことが大切です。

**申込の受付は、住所地を管轄する農林事務所で行われています。**必要書類をそろえて、窓口での手続きが必要ですので、あらかじめ営業時間や持ち物を確認しておくと安心です。

また、**試験の申し込みには医師の診断書も必要になります。**診断書には、統合失調症、そううつ病、てんかん、薬物依存(麻薬・大麻・覚醒剤など)の有無、自傷行為の恐れの有無、そして自己の行為を判断し適切に行動できるかどうかといった項目について、医師の判断を記載してもらう必要があります。

**午前中にはまず知識試験(筆記試験)が行われ、その後に適性試験が続きます。適性試験では視力や聴力、運動能力などが確認されます。**猟具を安全に扱えるかどうかの実技的な確認は、午後に行われる実技試験でチェックされます。

**筆記試験は、講習会で配布されたテキストの内容に基づいて出題されます。**狩猟に関する法令、鳥獣の知識、猟具の取り扱い、安全に関するルールなどが幅広く問われますが、講習をしっかり受けていれば対応できる内容です。

実際、筆記試験の合格率は非常に高く、私が受けた回では95%以上の受験者が合格していたと思います。講師の方が講習中に「ここはよく出ますよ」と教えてくれたポイントを押さえていれば、安心して臨めるはずです。

マークシート形式で、問題数はそこまで多くなく、冷静にテキストを復習していれば難易度は高くありません。時間にも余裕があります。

昼食を挟んだ午後には、午前中に行った試験の合格発表があり、無事に合格していればそのまま実技試験へと進む流れになります。

実技試験では、これまで講習で学んできた内容をそのまま繰り返すことが求められます。講習と同じ手順を正確に覚えて、順番通りに再現できるかが合否を分けるポイントになります。

私自身も、**講習から試験までの10日間はできるだけ毎日テキストを見返し、実技の動きを頭の中で何度もシミュレーションしました。**プレッシャーもありましたが、講習の内容をしっかり復習しておけば対応できる内容だと感じました。

**実技試験は1人ずつ別室に呼ばれて行われ、銃の扱い方や罠の設置・操作方法などを実際に審査されます。**そのため、順番が来るまでの待ち時間が長くなることもしばしばあります。

緊張感の中で長時間待つことになるため、心構えと集中力を保つ工夫が大切です。

すべての実技試験が終わったあとは、終了した人から順番に解散となります。合格発表は後日郵送で届く形でした。

次章では、実際の実技試験での体験や注意点について詳しくお伝えしていきます。

第6章|合格通知と免状交付までの流れ

実技試験が終わった数日後、自宅に合格通知が届きました。封筒の中には「〇月〇日以降に狩猟免状を交付しますので、農林事務所までお越しください」という案内が同封されていました。

狩猟免状の交付は、試験を申し込んだ際と同じ住所地を管轄する農林事務所で行われます。交付を受けるには、**本人確認のための書類(私は運転免許証を持参しました)**が必要です。

通知に記載された日時以降であれば、事前予約などは不要で、窓口に直接行って申請すればその場で免状を受け取ることができました

これで晴れて「狩猟免許保持者」となり、ようやくスタートラインに立てたという実感が湧きました。

免許を取得しただけでは狩猟に出ることはできません。その年に実際に狩猟を行うためには、**「狩猟者登録」**を行う必要があります。

この登録は、免許を取得している人だけが申請できるもので、例年8月から9月ごろに申請書が郵送で送られてきます。申請書には狩猟に関する保険への加入や、登録料の支払いが必要です。登録を済ませると、**狩猟者登録証と狩猟者記章(バッジのようなもの)**が交付され、いよいよ猟に出られる状態になります。

私の場合、第1種銃猟免許で登録したところ、登録料として16,500円がかかりました。また、狩猟中の事故などに備える「ハンター保険」にも3,200円が必要でした。他の種類の免許でも同様に登録料が必要で、さらに複数の都道府県で登録しようとする場合は、その都度それぞれに費用が発生します。

この登録を忘れると、免許を持っていても狩猟行為はできないので、スケジュールを確認して確実に手続きを行いましょう。

ここまでの準備が整うと、ようやく狩猟を行うことができます。狩猟が解禁される期間は地域によって異なりますが、一般的には11月から翌年3月頃までが狩猟期間とされており、その範囲内でルールを守って活動を行うことになります。おり、その範囲内でルールを守って活動を行うことになります。

第7章|狩猟を始めるための装備と準備

狩猟者登録を終え、いよいよ狩猟期間が始まると、実際に猟に出るための装備を整える必要があります。私自身もここでいろいろと悩みました。何を揃えればよいのか、どこで買うべきか、最初はわからないことだらけです。

まず必要なのは、実際の猟で使う猟具です。私は第一種銃猟免許を取得していましたが、銃の所持許可までは手続きが間に合わなかったため、まずは「くくりわな」を使った猟からスタートすることにしました。

くくりわなはすでに講習や試験で基本操作を学んでいたので、復習しながら設置の練習を行いました。わなはAmazonで購入しました。5個セットで約4万円だったと思います。最初はどれを選べばよいか迷いましたが、レビューや商品説明をじっくり読み、初心者でも扱いやすそうなタイプを選びました

次に必要なのは服装と安全装備です。迷彩柄や暗い色の服ではなく、狩猟ではオレンジや赤などの目立つ色のベストや帽子が推奨されます。これは他のハンターに自分の存在を認識してもらうための安全対策です。私も最初は黒系のアウトドアウェアで行こうとしていましたが、経験者にアドバイスをもらい、しっかりと安全色の装備に切り替えました

なお、初めて狩猟者登録をした人には、こうした安全色のベストと帽子が無料で配布されます。私もその制度を活用して、安全装備を整えることができました。

加えて、狩猟用のナイフも用意しました。また、鹿やイノシシなどを仕留めた際に迅速に止め刺しを行うために、電気止め刺し器も購入しました山の中では何があるかわからないため、万が一の備えがとても大事です

次章では、いよいよ私が実際に行った初めての猟の様子について紹介していきます。

第8章|はじめての猟

狩獲者登録を終え、装備を揃えた私は、ついに記念すべき“はじめての獲”の日を迎えました。緊張と期待が入り交ざった、今でも忘れられない一日です。

私の獲場はすこし変わっています。実は私の家の前に鹿が頻繁に現れるため、自宅整地内にわなを仕掛けています自分の所有する土地であれば、わなを設置することが可能です。この環境を活かして、自分の生活圏と直線したかたちで狩獲を始めることができました。

私の休日は土日なので、土曜日の夕方にわなを設置することにしました。そうすれば、日曜の朝に確認を行うことができ、万が一獲物がかかっていた場合でも時間に余裕を持って対応できます

この日は練習も兼ねて、2つだけ罰を仕掛けました。自宅の整地内には、鹿が何度も通ったことで草が踏み固められ、明らかに“通り道”になっている場所がありました。私はその疾跡を信じて、そこに罰を仕掛けることにしました。

初めての設置作業はとてもぎこちなく、正直なところ不安もありました。それでも講義で学んだことを思い出しながら、一生懸命に手順を確認して進めました。土を探る深さや、輪の広げ方、カモフラージュの草のかぶせ方など、細かい作業の一つひとつに神経を使いました。

そしてその日の夜、たしか9時ごろだったと思います。外から「ガチャン」という金属音が響きました。明らかに、罰が動作したときの音でした。

次章では、実際にわなに獲物がかかったときの体験についてお話ししていきます。

第9章|罠にかかった瞬間とその後の対応

その夜、「ガチャン」という金属音が響いた瞬間、私はすぐにピンときました。「もしかして、罠が作動したのかもしれない」——胸が高鳴る一方で、緊張も走ります。

外は真っ暗で、確認に行くには少し勇気がいります。**その夜はドキドキが収まらず、ほとんど眠れませんでした。**翌朝、まだ薄暗い時間帯に長靴とライトを持って外に出ました。罠の位置まで静かに近づいてみると、**なんと本当に鹿が罠にかかっていました。しかも、それはオスの一番大きなタイプの鹿でした。**初めての成功に、驚きと興奮、そして責任感が一気に押し寄せてきました。

**動物はまだ生きており、苦しませないよう迅速に止め刺しを行う必要があります。**私は事前に準備していた電気止め刺し器を使い、冷静に対応しました。

とはいえ、いざその場になると**「本当にこれで止め刺しができるのか」「失敗したらどうしよう」**という不安が頭をよぎりました。電気止め刺し器で本当に鹿の命を止めることができるのか?——その疑問と緊張で、**頭の中が真っ白になったのを今でも覚えています。**それでもシミュレーションしてきたことを思い出しながら、一つひとつ慎重に進めました。

**実際には、電気止め刺し器を10秒ほどあてることで鹿は仮死状態(動かなくなる)になります。**その後、首元をナイフで切って血抜きを行い、止め刺しを完了させました。**ただし、あまりにも長く電気を当てすぎると、そのまま死亡してしまう恐れもあります。**おおよそ30秒以上連続して通電すると命を落とす可能性があると言われており、使用には細心の注意が必要です。

止め刺しが終わった後は、鹿を罠から外し、解体できる場所へ運びました。**家の庭ということもあり、水道が使えるので、ホースが届く範囲まで慎重に引きずって移動しました。**土が付きすぎないよう注意しながら運び、自宅の作業スペースに移して解体作業に入りました。

この一連の流れは、**ただの作業ではなく、命をいただくという重みのある時間でした。**初めての経験で手際はまだまだですが、感謝の気持ちを込めて最後まで丁寧に処理しました。

次章では、初めての解体作業の様子や、そこから得た学びについて紹介していきます。

第10章|初めての解体作業と命に向き合う時間

鹿を庭まで運ぶだけでも一苦労でした。冬も近い季節とは思えないほど汗だくになり、特に今回はオスの一番大きなタイプだったこともあって、引きずってくるのにかなりの力を使いました

鹿を庭まで運んだあと、いよいよ解体作業に取りかかりました。私はこれまでYouTubeの動画や書籍で手順を学んでいましたが、実際に自分の手で行うのは初めてで、緊張と責任の重さを強く感じました。

まずは血抜きを終えた状態のまま、皮をはぐ作業から始めます。皮は思っていたよりも厚く、力加減やナイフの入れ方にコツがいりました。内臓に傷をつけないように慎重に進めていく作業は、まさに集中力との勝負でした

作業はすべて庭で行いました水道が使えたことは非常にありがたく、手やナイフ、作業場所をこまめに洗いながら進めることができたのは大きな安心感につながりました。

解体の途中で何度も「これでいいのか」「次はどうすればいいのか」と不安になりつつも、自分で命をいただくという行為の重みと向き合いながら、最後までやりきることを自分に言い聞かせていました

一頭をさばくのにかなりの時間がかかりましたが、なんとか形になったときには、大きな達成感と同時に、言葉にできない感謝の気持ちがこみ上げてきました

解体後に出た骨や残版については、近くにある自分の山へ一輪車で運び、土を掘って丁寧に埋めました。命をいただいた責任として、最後まできちんと処理することを大切にしました。埋めた後は、手を合わせて「ありがとう」と感謝の気持ちを声に出して伝えました

ちなみに、私は今回は自分でさばくという選択をしましたが、獲った鹿自体を買い取ってくれる業者というのも存在します。自分で解体するのが難しいと感じる方は、地域のジビエ処理施設や買取業者を調べてみるのも一つの方法だと思います。

次章では、解体後の肉の処理や保存、そしてそれをどう活用したかについて紹介していきます。

第11章|肉の処理・保存・活用について

解体が終わった後、次に考えるのは**「どう保存してどう活かすか」**ということです。私は初めての解体で、きれいに部位分けするまでには至りませんでしたが、食べられそうな肉を慎重に切り分けていきました。

まずは傷みにくいように、よく冷やすことが重要です。私はキッチンペーパーで水気をしっかり取り除いてから、真空パックにして冷凍保存しました。冷凍庫のスペースを確保するために、あらかじめ中を整理しておいたのは正解でした。

一部の肉は新鮮なうちに食べたいと思い、当日中に調理してみました。焼き肉用に薄切りにしたり、低温調理でロースト鹿にしてみたり、塩焼きにも挑戦しました。脂の少ない赤身肉は噛み応えがあり、どの調理法でも鹿本来の風味を楽しめました。やはり、鹿本来の風味というか、ジビエ感というのは拭えませんでしたが、変わった味が堪能できました。正直言うと、あまりおいしくありませんでした。ただ、それはたぶん、私の料理が下手くそだったからだと思っています。

冷凍庫には、大量の鹿肉が眠っています。私の調理方法では正直あまりおいしく食べられなかったこともあり、どう活かすべきか、すごく悩んで考えました。カレーやシチューにしても、やっぱり牛肉には勝てず、風味やコクの面では物足りなさを感じる場面もありました。

**試行錯誤を繰り返しながら、最終的にたどり着いたのは「鹿ジャーキー」**でした。スライスした鹿肉に下味をつけ、フードドライヤーでじっくりと乾燥させて仕上げるジャーキーは、保存性も高く、ビールのあてに最高で楽しめる優れた活用法でした。これなら味のクセも気にならず、美味しく食べられました

ジャーキーは家族にも超好評で、「これは売れるな」と冗談交じりに言われるほどでした。ただ、加工や販売にはいろいろな条件が必要なので、残念ながら売ることはできませんが、自宅で楽しむには十分すぎる成果でした。

こうして鹿の命を無駄にせず、感謝してすべてを活かすことを心がけました。次章では、狩猟を通して私が感じたことや、これから挑戦したいことについてまとめたいと思います。

第12章|狩猟を通して感じたことと、これからの挑戦

狩猟免許を取ろうと思ったきっかけは、家の前に現れた鹿によって家庭菜園を荒らされたことでした。最初はただの対処手段として始めた狩猟でしたが、実際に免許を取得し、装備を揃え、講習を受け、そして実際に鹿を捕らえ、解体し、食べるという一連の流れを経験して、私の中で狩猟に対する意識は大きく変わりました

それは、単なる趣味でもなく、ただの駆除でもなく、命と向き合う行為そのものだったということです。自然の気配を感じ、罠を仕掛けるたびに自分の五感を研ぎ澄ませ、獲物に向き合う瞬間の責任の重さを知りました。

**初めて鹿を捕まえた日、命をいただくという意味の重さを心から感じました。**そして、それを自分の手で解体し、食べることで、命の循環の一部になったような感覚がありました。

**自然との関わり方を見つめ直す機会となり、自分の食べるものに対する意識も変わりました。**とはいえ、まだまだ経験不足な部分も多く、特に調理面では改善の余地だらけです。

これからの目標は、もっとおいしく鹿肉を食べるための調理技術を身につけること。そして、地域の獣害対策にも貢献しながら、持続可能なかたちで狩猟を続けていくことです。

狩猟を始めてみたいと思っている方がいれば、ぜひ一歩踏み出してみてほしいと思います。大変なこともありますが、それ以上に得られるものは大きいと、今の私は胸を張って言えます。

第13章|狩猟を始めてから「これは必要だな」と思ったもの・こと

1回目の狩猟を経験してみて、**「これはあったほうがいいな」「これがあればもっとスムーズだったな」**と感じたものや、考え方の変化がいくつもありました。

まず、最も強く感じたのは**「移動手段と運搬手段の確保」**です。私の場合は自宅の前が猟場だったため比較的恵まれていましたが、実際に鹿を運ぶとなると、重量もあり、距離があると相当苦労するはずです。猟場が遠方になる人は、リアカーや軽トラのような小型運搬手段があると安心だと思います。

また、捕獲後の処理をスムーズにするための**「道具の整理と準備」**も大事です。ナイフやロープ、ゴム手袋、消毒液、ゴミ袋、ライトなど、一連の流れを想定した装備を1つのコンテナにまとめておくと、いざという時に慌てずに済みます。

次に感じたのは**「服装と安全意識」**です。実際の現場は汚れるし、天候や気温も刻々と変わります。防寒・防水・通気性を兼ね備えた作業服や、視認性の高い安全色のベストは必須だと実感しました。

考え方の面では、**「命を扱う覚悟」と「準備の丁寧さ」**が何よりも大切だと気づきました。1回目の猟ではわからないことだらけで、反省点も多かったですが、その都度メモをとって次に活かすようにしています。

これらの経験をもとに、次は**「自分の狩猟スタイル」**をどう構築していくかを考えながら、より快適で効率的、そして動物にとっても無駄のない猟ができるようになっていきたいと思っています。

第14章|私の狩猟スタイルの模索とこだわり

1回目の狩猟を経験したあと、私は「どうすればもっと自分らしく、納得のいく猟ができるか」を真剣に考えるようになりました。獲物を仕留めるだけでなく、その命をどう扱うか、どう活かすかが自分にとっての重要なテーマになってきたのです。

その第一歩として、私は道具を一つひとつ見直し、自分に合ったスタイルを作り上げていくことにしました。

まず揃えたのは、中古の軽トラです。価格も抑えめで、移動手段としてだけでなく、運搬にも絶対に必要だと実感しました。そしてその軽トラに鹿を積むために、折りたたみ式のアルミ製ラダーレール(軽量タイプ、2本)を用意しました。これがあると鹿をスムーズに荷台に引き上げることができます

さらに、鹿の運搬を行うために、**トロ舟(コンクリートを混ぜる容器としても使われる大型の箱)**も購入しました。鹿がすっぽり入るサイズで、地面や軽トラが汚れず、作業もしやすくなります。

他にも、**ロープやハンドウインチ(私はロープ式を選びましたが、今思えばワイヤー式の方が良いかもしれません)**も用意しました。ロープは運搬や固定に、ウインチは鹿を引き上げるときに重宝しています。

加えて、軽トラの荷台用シートと荷台に敷く保護用のシートも今後の必須装備として考えています。雨や汚れから荷台を守り、作業後の掃除も格段に楽になります。

これらの装備は、すべて1回目の経験を通じて「必要だ」と感じたものです。どれも自分なりに試行錯誤して選んだ結果であり、今では私の狩猟スタイルに欠かせない要素となっています。

道具だけでなく、「どう命と向き合うか」という考え方も変化してきました。

私は、獲った鹿を無駄にしないことを大事にしています。肉は自分で食べるか、必要としている人に渡し、皮や骨もなるべく活用する方法を模索中です。**命をいただく以上、最後まで丁寧に向き合いたい。**それが、私の狩猟スタイルの根底にある考えです。

これからも経験を重ねる中で、さらに自分らしいスタイルを磨いていきたいと思っています。

第15章|まとめ:暮らしを守る

振り返ってみると、すべてのきっかけは**「野菜が荒らされた朝」でした。
あの日までは、狩猟なんて自分には関係のない世界だと思っていました。だけど、大切に育てた作物が一晩で消えた現実を前に、
「何かを変えなければ」**という思いが私を突き動かしました。

そして今、私は狩猟免許を持ち、くくり罠を使って自分の手で地域の被害に立ち向かっています。
それはただの駆除ではなく、**「暮らしを守る行為」**であり、自然と命に向き合う時間でもあります。

最初は不安だらけでした。講習、試験、装備、止め刺し、解体、調理……どれも未知の世界でした。
けれど、ひとつずつ経験し、失敗し、考えて、学んできたことで、**「自分の暮らしを自分で守る」**という自信が芽生えました。

もちろん、まだまだ学ぶことばかりです。特に調理の腕はこれから磨かなければなりません。
けれど、いただいた命を無駄にせず、自分なりのスタイルで大切に扱うという姿勢だけは、これからも変わらず持ち続けたいと思います。

田舎暮らしには都会では想像もつかない苦労もありますが、だからこそ得られる充実感や、人とのつながり、自然との距離の近さがあります。

この記録が、これから狩猟を始めたいと考えている方や、獣害に悩む方にとって、ほんの少しでも参考になれば幸いです。
そして、同じように**「自分の暮らし方」を見つめ直そうとしている人にとって、一歩を踏み出すきっかけ**になれば、それ以上に嬉しいことはありません。